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​トビハゼ・ムツゴロウの生理生態

 この研究は、1995年マレーシアのペナン島の干潟調査でスタートしました。2000年~2002年にはオーストラリアのダーウィンを中心とした地域で、さらに2003年~2005年には韓国南岸の干潟で調査を行いました。これらの海外調査と平行して私達の研究グループは、有明海のトビハゼとムツゴロウを対象として、主に再生産の行動と生態を探る研究を行っています。
 様々な研究テーマにチャレンジしましたが、最も大きな成果として挙げられるのは、干潟の泥の中に巣孔を掘って、そこに産卵する習性をもつこれらの魚類の卵が、どのようにして発育に必要な酸素を得ているのかを解明したことです。巣孔を満たしている海水はほとんど酸素を含んでいないため、この海水中に卵をおくと短時間で死滅してしまいますが、佐賀県芦刈町の協力で行った調査の結果、巣孔を守り卵保護をするトビハゼのオス親魚は、干潮で干潟が現れている間に空気を口に含んで産卵室に持ち込み、卵はこの空気の中で発育していることをつきとめました。確かにトビハゼ・ムツゴロウの卵は空気中で発育するのですが、空気中では決して孵化しません。この謎を解くにはさらに長い年月の努力が必要でした。そして終につきとめたのは、卵保護期間(約1週間)の最後、夕方遅くから夜間の満潮時に、巣穴を守っているオスが今度は産卵室から空気を口に含んで持ち出す行動でした。この行動は満潮時に起こるため、空気を持ち出すことによって産卵室内の水面は徐々に上昇していき、最後には全ての卵が水に漬かってしまったのです。水に漬かった卵は数秒という極短時間のうちに孵化しました!これらの行動はビデオで撮影され、学会やマスコミに大きな反響を引き起こしました。これらの成果は干潟脇にテントを張って、毎日頑張って研究をやってくれた学生諸君の努力の結晶です。またこれら一連の研究を始めるきっかけとなったのは、1995年ペナンで干潟から帰ってきた大学院生の「先生、巣穴の近くを歩くと中から泡がたくさん出てきます」という一言でした。最初のこの発見は、1998年にNatureに掲載されました。また有明海のトビハゼの空気を使った卵保護と空気を抜くことによって引き起こす卵孵化誘導行動は、2007年Journal Experimental Biologyに掲載されるとともに、2008年にはイギリスのBBCが現地で約2週間の取材を行い、2009年には全世界でBBC”LIFE”シリーズの一こまとして放送され、大きな話題となりました。また2008年には韓国のKBS、2009年にはフランス国営放送の取材も受け、世界中に情報発信することができました。

 現在取り組んでいるテーマは、空気中で発育するトビハゼの卵が、どのようにして窒素代謝物を排泄しているのか、また空気呼吸の獲得にともなってトビハゼ・ムツゴロウ類の血管系がどの様に変化してきているのか、などです。2011年からはベトナム南部、メコンデルタでの野外調査や中国揚子江干潟でのムツゴロウ調査などを計画しています。

​トビハゼくん

​干潟で休憩

​ムツゴロウの毛細血管

​福所江の朝焼け

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